「どうもスッキリしない…」「トイレに行ったばかりなのに、まだ尿が残っている感じがする」。そんな男性特有の「残尿感」に悩まされていませんか。誰にも相談しづらく、ついつい手軽な市販薬で何とかしようと考えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その安易な選択が、実は症状を悪化させたり、隠れた原因を見逃したりする危険性をはらんでいることをご存知でしょうか。この記事では、泌尿器科医の視点から、男性の残尿感の背後にある様々な原因、市販薬に潜む注意点、そして場合によっては避けるべき「NGな薬」について解説します。
男性特有の残尿感、その原因は一つじゃない
残尿感とは、排尿した後も膀胱内に尿が残っているような不快な感覚のことです。この症状は、特に中高年以降の男性にとって決して珍しいものではありませんが、その原因は一つではなく、多岐にわたります。
最も一般的な原因として挙げられるのが「前立腺肥大症」です。加齢とともに前立腺が大きくなると、尿道が圧迫されて尿の通り道が狭くなり、尿の勢いが弱まったり、排尿に時間がかかったり、そして残尿が生じやすくなります。この残尿が、不快な残尿感として自覚されることもありますが残尿があるからといって必ず残尿感を自覚するわけではありません。
また、糖尿病や脳血管障害、脊髄の病気などによって膀胱や尿道の神経が障害される「神経因性膀胱炎」も、排尿機能の低下を招き、残尿や残尿感を引き起こします。
その他にも、過去の外傷や炎症によって尿道が狭くなる「尿道狭窄」や、細菌感染による「膀胱炎・尿道炎」が炎症刺激として残尿感を感じさせることもあります。このように、残尿感の原因は様々であり、それぞれに適した対処法や治療薬が異なるため、自己判断は禁物です。
市販薬の落とし穴:「とりあえず」が招く危険
不快な残尿感を早く何とかしたい一心で、薬局で市販薬を求める方は少なくありません。しかし、「とりあえず」の選択が、思わぬ危険を招くことがあります。
例えば、「頻尿・残尿感に効く」と謳われている市販の漢方薬や生薬製剤がありますが、これらは全てのタイプの残尿感に有効なわけではありません。前立腺肥大症のように物理的に尿の通り道が狭くなっている場合には、根本的な解決には至らず、効果が期待しにくいことが多いのです。むしろ、適切な治療を受ける機会を遅らせてしまう可能性すらあります。
さらに注意が必要なのは、普段何気なく使用している他の市販薬です。総合感冒薬(風邪薬)や花粉症などのアレルギー治療薬に含まれることがある「抗ヒスタミン薬」や一部の咳止め成分には、「抗コリン作用」という膀胱の収縮を抑える働きがあります。この作用は、過活動膀胱の治療には有効な場合もありますが、前立腺肥大症などで元々尿の出が悪い方が服用すると、さらに尿が出にくくなり、残尿感の悪化や、最悪の場合には尿が全く出なくなる「尿閉」という状態を引き起こす「NGな薬」となり得るのです。
また、炎症による一時的な残尿感(例えば膀胱炎の初期など)に対して市販の鎮痛剤を使用すると、症状が一時的に和らぐかもしれませんが、原因となっている細菌感染を治療しなければ根本的な解決にはなりません。その間に病状が進行してしまうリスクもあります。
泌尿器科での正しい診断と「適切な薬」
では、不快な残尿感を感じたらどうすればよいのでしょうか。答えは一つ、まずは泌尿器科を受診し、専門医による正確な診断を受けることです。
泌尿器科では、まず詳しい問診で症状の程度や経過、既往歴、服用中のお薬などを丁寧にお伺いします。その後、尿検査で尿路感染の有無や血尿の有無などを確認します。そして非常に重要なのが、超音波検査による「残尿測定」です。これは、排尿直後に膀胱内にどれくらいの尿が残っているかを痛みなく簡単に測定できる検査で、残尿感の原因を探る上で不可欠です。また、尿の勢いを調べる「尿流量測定」や、必要に応じて前立腺の状態を詳しく調べる検査、膀胱鏡検査(内視鏡検査)などが行われることもあります。
これらの検査結果を総合的に判断し、原因に応じた適切な治療薬が選択されます。例えば、前立腺肥大症であれば、尿道の緊張を緩めて尿を出しやすくする「α1ブロッカー」や、前立腺のサイズを縮小させる効果のある「5α還元酵素阻害薬」、あるいは両方の薬剤を併用することもあります。過活動膀胱であれば、膀胱の過敏な収縮を抑える「抗コリン薬」や「β3(ベータスリー)作動薬」が処方されます。細菌感染による膀胱炎や尿道炎であれば、原因菌に合わせた抗菌薬が必要です。
医師は、患者様一人ひとりの症状、年齢、体力、他に患っている病気、そして現在服用している全てのお薬の飲合わせ(相互作用)などを細かく考慮した上で、最も安全で効果的な薬を処方します。これこそが、市販薬では決して得られない専門医療の大きなメリットです。
自己判断せず専門医に相談を
男性の残尿感は、単に不快なだけでなく、様々な泌尿器科的な問題が隠されているサインかもしれません。その原因は多岐にわたり、安易な市販薬の使用は、症状を悪化させたり、根本的な原因の発見を遅らせたりするリスクを伴います。
特に、普段から他の病気で薬を服用している方や、前立腺肥大症の診断を受けている方は、市販薬の成分が予期せぬ影響を及ぼす可能性があるため、薬の自己判断は絶対に避けるべきです。残尿感に気づいたら、できるだけ早く泌尿器科専門医にご相談ください。
正確な診断に基づいた適切な治療を受けることが、不快な症状からの解放と、QOL(生活の質)の向上のための近道です。あなたの健康を、私たち泌尿器科医は全力でサポートします。



