「尿に血が混じっているけれど、特に痛みはないから大丈夫だろう」
そう思っていませんか?実は、痛みがない血尿(無症候性血尿) こそ、注意が必要なケースがあります。血尿は、体からの重要なサインかもしれません。特に、目で見てわかる血尿(肉眼的血尿)の場合、約20%に尿路系の悪性腫瘍(がん)が見つかるというデータもあります。
今回は、痛みがない血尿について、考えられる原因や放置するリスク、そして受診すべきタイミングについて、泌尿器科医の視点から分かりやすく解説していきます。ご自身の健康状態を把握する一助となれば幸いです。
1.痛みなしでも血尿が出る原因とは?
痛みがないのに血尿が出る場合、主に腎臓、尿管、膀胱、尿道といった「尿路」のどこかに出血源があると考えられます。特に注意すべき原因を見ていきましょう。
- 腎臓からの出血が原因の可能性とは?
腎臓は血液をろ過して尿を作る臓器です。この腎臓自体に問題があると、血尿が出ることがあります。代表的なのは腎炎です。腎炎には様々な種類がありますが、IgA腎症などは、初期には自覚症状が乏しく、健康診断の尿検査で潜血(目に見えない血尿)を指摘されて初めて気づくケースも少なくありません。風邪などをきっかけに肉眼的血尿が出現することもありますが、痛みを伴わないことが多いのが特徴です。
また、腎血管筋脂肪腫のような良性の腎腫瘍が破裂して出血したり、ナットクラッカー症候群(左腎静脈が腹部大動脈と上腸間膜動脈に挟まれて圧迫される病気)などが原因で血尿が出ることもあります。これらも痛みを伴わないことが多いです。
- 前立腺や膀胱の病気による無症候性血尿に注意
男性の場合、前立腺肥大症も血尿の原因となり得ます。肥大した前立腺の表面の血管が切れて出血することがありますが、排尿時の痛みなどを伴わないケースも多いです。
男女ともに注意が必要なのが膀胱の病気です。特に、膀胱がんや膀胱ポリープは、初期症状として痛みのない肉眼的血尿が出ることが最も多いとされています。「一度だけ血尿が出たけど、すぐに止まったから大丈夫」と自己判断せず、必ず専門医の診察を受けるようにしましょう。
2.血尿が出たのに痛みがない…放置しても大丈夫?
痛みがないと、つい「そのうち治るだろう」と様子を見てしまいがちです。しかし、その判断が重大な病気の見逃しにつながる可能性があります。
- 悪性腫瘍(がん)による血尿の可能性を考える
前述の通り、痛みのない血尿で最も注意すべきなのは、尿路系の悪性腫瘍(がん)の可能性です。代表的なものとして、膀胱がん、腎盂がん、尿管がん、進行性の腎細胞がん、などが挙げられます。
これらのがんは、初期段階では血尿以外の症状が出ないことが多く、痛みを伴わない血尿が唯一のサインであることも少なくありません。特に膀胱がんは、血尿が出たり止まったりを繰り返す特徴があります。早期に発見し治療を開始できれば、完治の可能性も高まります。血尿に気づいたら、決して放置せず、泌尿器科を受診してください。
- 加齢や薬の影響で起こることも?油断できない理由
がん以外にも、痛みのない血尿の原因は様々です。加齢に伴い、血管がもろくなったり、前立腺が肥大したりすることで血尿が出やすくなることがあります。
また、服用している薬の影響も考えられます。特に、血液をサラサラにする薬(抗凝固薬や抗血小板薬)を服用中の方は、わずかな出血でも血尿として現れやすくなります。ただし、「薬のせいだろう」と自己判断するのは危険です。薬の影響だとしても、出血の原因となる病気が隠れている可能性も否定できません。必ず医師に相談しましょう。
その他、激しい運動後に一時的に血尿が出ること(運動後血尿)もありますが、これも他の病気との鑑別が必要です。
3.痛みなしの血尿で考えられる原因は?
痛みのない血尿で受診された場合、原因を特定するために様々な検査を行います。ここでは、特に注意すべき腎臓や膀胱の異常について解説します。
- 腎炎や腎結石など、腎臓に潜むリスク
腎臓が原因となる血尿の場合、腎炎の可能性を考えます。尿検査や血液検査で腎機能やタンパク尿の有無などを調べ、必要に応じて腎生検(腎臓の組織を一部採取して調べる検査)を行うこともあります。腎炎の種類によっては、将来的に腎不全に至るリスクもあるため、早期の診断と適切な治療が重要です。
腎結石や尿管結石も血尿の原因となりますが、尿管結石の場合は激しい痛みを伴うことが多いです。しかし、結石の位置や大きさによっては痛みがなく、血尿だけが出るケースもあります。超音波検査やレントゲン検査、CT検査で診断します。
- 膀胱ポリープやがんなど泌尿器系の精密検査が必要なケース
膀胱からの出血が疑われる場合は、膀胱鏡検査(内視鏡検査)が非常に重要です。これは、尿道から細いカメラを挿入し、膀胱内部を直接観察する検査で、膀胱がんやポリープの有無を確認するのに最も確実な方法です。
また、尿の中にがん細胞が混じっていないかを調べる尿細胞診や、超音波検査、CT検査、MRI検査なども組み合わせて、総合的に診断します。これらの検査により、がんだけでなく、膀胱結石や膀胱炎などの病気も見つけることができます。
4.血尿が出たけど痛みがないのまとめ
今回は、痛みがない血尿について解説しました。
以下に重要な内容を簡単にまとめます。
・痛みがない血尿(無症候性血尿)でも、決して自己判断で放置しないこと。
・特に目で見てわかる血尿(肉眼的血尿)は、悪性腫瘍(がん)のサインである可能性があるため、速やかに泌尿器科を受診すること。
・原因は腎臓、膀胱、前立腺など多岐にわたるため、専門医による適切な検査・診断が不可欠であること。
血尿は、体からの重要なメッセージです。たとえ痛みがなくても、「おかしいな」と感じたら、できるだけ早く泌尿器科にご相談ください。早期発見・早期治療が、皆さんの健康を守る鍵となります。